RADICAL MODERNITY: TEATORA’s 21st Century Workwear
Interview // END. FEATURES
現代的ワークウェアを革新的なアプローチで発信するTEATORA。デザイナー上出大輔とEND.が対話します。
上出大輔はTEATORAを通して、ワークウェアというものの中にある空白を埋めようとしている。
上出は、機能的かつ革新的思想を兼ね備えたプロダクトを創出することにより、21世紀のワークウェアのあるべき姿を映し出している。
現代の労働環境において、座るという事は誰にとっても自然な姿勢である。
TEATOTAは、上出自身の確固たる必要性と自身の体験を元に明確なビジョンを提案している。
東京を拠点とするこのブランドは、彼自身の理想のパンツの創造への探求から始まった。
パッカブルシリーズをはじめとする数多くのプロダクトは、緻密で思考的な作業の効率向上を目的としたプロダクトだ。
先進的思考と多用途性を基盤としたこのブランドは、独自の視点でワークウェアに欠如しているものを特定し、進化の停滞したワークウェアそのものを進化させることで、ワークチェアに座る現代クリエーター達へエールを送っている。
今回END.ではTEATORAのパッカブルシリーズ、機能性の本質、そしてワークウェアへの新解釈について、上出大輔と話しを交えます。
Q1 ; テアトラというブランドは、現代の都市生活において必要とされる機能性や、スマートカジュアルが求められる現代のオフィスワーカー(現代的労働者)のためのプロダクトを創ることで、昨今のメンズウェアの中にあった実用性との隔たりを解消したと感じています。
なぜメンズウェアデザインの世界はこれまで、そのような現実的なニーズに応える、もしくはギャップを解消するような洋服、プロダクトを創る事が出来なかったのだと思いますか?
これまでスーツが長く進化してこなかった大きな理由は、スーツが礼儀やマナーに由来するものであり、時代は変われど、礼儀やマナーに大きな変化がなかったからだと考えています。
そしてこれからも緩やかな変化はあれど、礼儀やマナーに由来することは大きく変わることはないでしょう。
進化できる隙間ができたのは、WIFIインフラが整ったことやiPHONEのようなオールインワンデバイスの革命的な登場により、働き方や持ち物すらも、ここ10年で劇的に変わったことにあります。
Q2 ; ご自身のパーソナルな経験を含めた分析や必要性、それらのポイントがブランドをスタートするインスピレーションだったのでしょうか?
僕にとって、人生の大半は仕事であり座っている時間は眠っている時間を圧倒的に超えます。
座り続けることを前提としたパンツの開発、それがTEATORAの第一歩でした。
そもそもスラックスは立ち姿を前提として作られたものなので、現代のように座り続ける環境なんていうのは、全く想定せずに生まれてきた物なのです。座ることを最重要課題にした時、これまでとは全く違うパンツが必要です。
従来のスラックスから考えれば、必要なディティールよりも不必要なディティールの方が多く、従来の価値を変えていくというよりは、そもそも存在しなかった価値観を生み出す必要がりました。
TEATORAは座るという行為と向き合うことから始まったのです。
Q3 ; 多種多様な機能性があり、人それぞれ別々の機能性を求めます。
例えば、ハイキング向きの機能をもつプロダクトは、ランナーに適しているというわけではありません。
テアトラにとって、機能において多用途性を持つことがTEATORAの重要なポイントなのでしょうか?
僕たちはランウェイもしなければモデルルックの撮影もしません。
それは、どう着るかは僕たちが提案するものではなく着用者の個性に委ねるべきだとの考えからです。
機能も同様で、どんなシュチュエーションでどんな使い方をするかすらも、着用者の個性やライフスタイルに委ねられるべきだと考えています。
例えば僕たちはビジネスにも耐える機能服として開発していますが、旅の便利ギアとして使ってくれる方もいれば、荷物がたくさん入るのでマザーズコートとして使ってくれる方もいます。
僕が考える本当の意味での機能的なプロダクトとは、あるシュチュエーションでしか使えないものではなく使う人のライフスタイルによって可能性を無限大に引き出せるプロダクトであると考えています。
こう使う物だと提案することよりも、着用者が自由に使える余白を持たせることによって、様々なシュチュエーションに適応する。
それこそがひとりひとりが使い方を変えることができるという最大の機能になるのです。
Q4 ; それらの機能性に対して、テアトラはどのように向かい合い、対処方法、解決策を導き出すのでしょうか?
TEATORAでは機能やコンセプトをデザインするにあたり、自らが実体験をしなくてはデザインしてはいけないというルールを設けています。
予想や憶測で作られたものでは役に立たないからです。
自らが身を置きリアルに体験することで、初めて認識していなかった価値に気づくことができます。
そして最も重要なのは“これは絶体に必要だ!“と確信できるまで、その “気付き“ と向き合うことです。
数値化できる価値というのは、裏を返せば既に存在する価値でしかありません。
新しい価値は数値化できないものの中に潜んでいて、それらは実体験以外に発見することはできません。
大切なことは数値化できない価値に気づき、確信すること、計測機では測れない価値を独自の方程式で見出せるか。
Q5 ; 新しいプロダクトをデザインする際、美的、視覚的要素、そして機能性の側面において、一番初めに何を考え始めるのでしょうか?
新しいプロダクトを開発するにあたって最重要視していることは、
“そもそも作る必要があるのか。圧倒的であるか。”
デザイン云々の前に本当に必要なのかをまず考えます。
本質的な必要性がない物を僕自身が必要としないからです。
TEATORAの98%のカッティングは、見出した価値への必然性で構成されます。
いわゆる美的デザインが入り込める余地はごく仄かなものです。
ただ、仄かにしか入れられないからこそ、線ひとつ、仕様ひとつには神経を尖らせます。
その仄かな線を入れるときに大切にしていることは、着用する人がどう使い、どう着て、どう働くか。
さらに大きいことを言うのであれば着る人がどう生きるのかみたいなことに、ほんの少しの美しい線がそえられたらな、と考えています。
Q6 ; テアトラのプロダクトをパッカブルにする事の重要性、そして理由を教えて下さい。
パッカブルシリーズは、旅のために開発されたシリーズです。
僕は普段から鞄を持たず、旅においてもできるだけ最小限の荷物で済ませます。
ですのでパッカブルシリーズの開発にあたっては、
① コートに鞄並の収納力を持たせることで鞄は不要。
② 面倒な手荷物検査ではコートを脱いでトレーに乗せるだけ。
③ 旅先で雑に扱える。
④ ちょっとしたTPOには耐え、堅苦しくもない。
⑤ 邪魔なら丸めてスーツケースに投げ込める。
といった具合に、様々な私欲に満ちた機能が盛り込まれています。
ガーメント一体型のパッカブルポーチは、着用時にはセキュリティーポーチとして利用することができ、非着用時はコンパクトにガーメントを包み込み、完璧で美しいパッキングをすることができます。
Q7 ; パッカブルという要素をテアトラのプロダクトに加えることで、デザインプロセスに変化はあるのでしょうか?もしくはパッカブルプロダクトのデザインプロセスにおけるストーリーがあれば教えて下さい。
TEATORAではコートのベルトや、脱着式のフードといった、取り外せるパーツを禁止しています。
理由は僕自身が無くすからです。笑
最近は世の中にもパッカブル製品があふれていますが、ガーメントと別に袋が付属するものが多い。
あれは無くすどころか、荷物を増やしているので僕からすると本末転倒です。
パッカブルシリーズのような一体型デザインで大切にしているのは、いかにディティールを増やさずに増やすか。
ディティールの中に、異なる価値を見出し最大化すること。
TEATORAのパッカブルシリーズで言えば、一体化させることでパッキングのしやすさはもちろんのこと、パッカブルポーチを紛失することもなく、着用時はセキュリティーポーチとして利用することができるので貴重品を持ち運ぶための鞄すら持たなくて済みます。
TEATORAの機能開発においては、とっかかりの目的であるパッキングさせることだけで終わらせずに、二次、三次の機能を共存させることが重要なのです。
Q8 ; テアトラのプロダクトは、新しいワークウェアのあるべき姿が表現されていると感じています。現代的ワークウェアというものをどのように解釈し、定義するのでしょうか?
TEATORAが考えるワークウェアとは、いく場所がどこであれ、会う相手が誰であれ、品格を持ってかつ機能的なために、着替える必要すらないプロダクトです。
仕事だからこの服、休日はこの服といった境界線のない、“オールインワンガーメント”。
そうなった時、それらをワークウェアとは呼ばなくなるでしょう。
それどころか仕事用の服を買うといった発想すらなくなるでしょう。
ワークウェアという概念自体をなくし、TEATORAという概念を作ることが僕たちの目的のひとつです。
とても大きなビジョンですが、それでも確信しているのは、“圧倒的な利便性を体験すると、体験以前には戻れない”ということです。
インターネットやiPHONE以前がもはや想像もできないように。
interview by END.