Daisuke Kamide – TEATORA
Interview // Norse Store Journal
上出大輔は自身のブランド、TEATORAをスタートし、 現代的デスクワーカーのための“ワークウェア”の再定義を試みた。
その厳格なまでのビジョン、そして自身の生活上での綿密なテストを通し、現代の生活における抜本的な変化やワークプレイス上でのニーズに同時に対応する刷新的とも言える“ワークウェア”をもたらす事に成功している。
TEATORAのプロダクトの重要な特徴として、パッカブルという特性、室内と室外の環境変化にも十分に対応する全てを兼ね備えたワードローブ、同時にシャープなテーラードと機能を念頭に置いたデザインが上げられる。
東京にあるTEATORAのヘッドクォーターへの訪問の際、私たちが今認識しているワークウェアを、TEATORが、どのように刷新しているのか、彼の実質的かつ哲学的見識を踏まえてデザイナー上出本人が打ち明けてくれた。
僕にとっての人生の大半の時間は仕事であり、僕の座っている時間は眠っている時間を圧倒的に超えます。
座るという行為の中でも、最もストレスを感じるのは長時間のフライトです。
同じ様に僕の尊敬する仲間たちも同じ様な働く環境下にいました。僕や仲間を占有する極めて長い時間のストレスを軽減したいというのがコンセプトに至る経緯のひとつです。
世の中には様々な機能服がありますが、デスクワークのために開発されたエレガントかつ機能的であるスーツは、僕の知りうるかぎり存在しませんでした。
最近では機能的なスーツを謳うブランドも増えてきましたが、あれらはジャケットの様な形をした便利グッズにすぎません。
個人のカジュアルな旅行程度には良いのでしょうが、目上の人に会ったり、ドレスコードのある場所などにはとても着られるものではありません。
TEATORAが最も重要視している機能は品格です。
ドレスコードをこなし、目上の人にも会うことができることが大前提で、その上で二次的機能として、オフィスや移動、旅に至る機能が加えられています。
TEATORAの最大の強みは行く場所がどこであれ、会う相手が誰であれ、品格を持ってかつ、機能的なために着替える必要すらないことです。
開発における強みで言えば、僕自身が常に着用し、対象の環境に身をおき、検証し、アップデートするためには誰の許可も必要ないという作り方です。これは、圧倒的かつ膨大、高精度のデータに基づきつつ、攻撃的に開発ができるということです。
僕は山も登らなければ、スポーツもしない。
雨にさらされる場所にも行きません。
でも世の中で機能的と呼ばれるものは、レインウェアやアウトドアウェア、スポーツウェアといったものばかりです。
これらは僕の生活とは全くフィットしません。
僕が最も必要だったのは、いかなるビジネスのTPOにも耐え、ストレスフリーなスーツだったのです。
TEATORAには“クリエーターのパフォーマンスを向上する”というブランドコンセプトがありますが、これに加えて細分化されたラインごとのコンセプトが存在します。
ここで言うラインとは、TEATORAではビジネスにおけるいくつかのシュチュエーションを想定し、各ビジネスシュチュエーションに特化した機能を加えるために存在しています。
開発にあたって、どのラインにおいても共通しているのは、
1.) 自らがストレスを感じる
2.) そのストレスを削除、軽減させる機能を研究する
3.) 自らが実証テストをする
といった、“本来”、物作りにおいて当たり前のことを粛々と行って開発しています。
“本来“と言ったのは、一般的なアパレル業界においては、半期に数百ものプロダクトの開発をしていますが、TEATORAではそれを良しとしていません。
TEATORAでは開発において、研究、検証に最も重きを置いているため、年間に発表される新型はわずか1〜2型、シーズンによっては新型が存在しないときも、ざらにあります。
ですので、TEATORAを初めて5年経ちますが、5年をもってしても(シルエット違いを除けば)未だに10数型しか存在しません。これは実証テストにおいて、“絶対に必要である”という確信と、”圧倒的である”という確信が揃わなければ、どれだけ開発費用がかかっていようが製品化しないからです。
ビジネスウェアにおける機能を考えた時に、座るという行為を無視するとはできません。
僕の場合、座っている時間は眠っている時間よりも長いのですから当然です。
パンツが世の中に生まれてから随分と永い時間が過ぎましたが、その形状はほとんど生まれた時のままです。
そもそもスラックスは立ち姿を前提に作られたものですので、現代の様に座り続ける環境なんていうのは、全く想定せず生まれてきたものなのです。
しかし、現代はどうでしょうか?立つより、歩くより、眠るより、座る時間の方が長いのです。
TEATORAではまず、徹底的に座るという行為の検証をしました。
座ることを最重要課題にした時、全く違うパンツが必要です。従来のスラックスから考えれば、必要なディティールよりも不必要なディティールの方が多く、従来の価値を変えていくというよりは、そもそも存在し得なかった価値観を生み出す必要がありました。
座ることを前提にした時、ヒップポケットの存在はありえませんが、現代においてiphoneを持たない環境などありえません。
フロントポケットも同様に、iphoneの様な硬質な金属製品を入れたまま座ることはできません。なぜなら座る時最も体が屈折するのがフロントポケットの位置だからです。
座る時に邪魔にならず、座ったまま容易に出し入れが可能で、かつセキュリティーも備える。これがwallet pantsのセキュリティーポケットの開発コンセプトです。
何となく便利というのは親切ではありません。
また、こちらとしては語ることは沢山ありますが、沢山の解説文の押し付けは僕自身が好きではありません。
まずは、何に特化したものなのかが、ピクトグラムやライン名によって直感的に伝えられることがギアチャートの有用性と言えます。
TEATORAの想定する機能において、品格があるということは、快適であることと同様に重要です。
どちらかが欠けてもTEATORAでは採用しません。
着心地において言うのであれば、何となく快適ではなく、圧倒的に快適であるかにつきます。
TEATORAで求める様々な機能はレインウェアなどと違って数値化できないものがほとんどです。ですからまず、どちらの方が優れているかということを判断できるようにするために反復した検証から生まれる複雑な方程式を導き出すことが重要です。
例えば今回NORSE STOREでピックアップしてもらってるPACKABLE HORIZONで言えば都市から亜熱帯や熱帯への移動をベースに開発されていますが、ビジネストリップであったとしても、スーツが暑苦しく映るのはスマートではありません。カジュアルすぎても良くない。
汗は必然的にかき、気温湿度によるストレスが上昇する。反面、滞在期間中のオフタイムは極めて楽な格好がよく、扱いも雑にできた方が良い、、、、、といった具合に、検証すればするほどどんどん解決すべき要素が出てきます。
それらをひとつの素材で、ひとつのプロダクトで解決しようとした時に、一つの方程式や機材で計測できるわけがないのです。
反復検証により導き出したTEATORA式の複雑な方程式と、それを実体化できるテキスタイルの科学技術が揃った時に、初めて素材が完成します。
いくつかの答えがあります。
ひとつは、僕の考える機能性とは、機能性は自分で感じるものであって、「私は機能的な服を着ています!」と誰かに伝えるためのものではありません。表に出して相手に気づいてもらう必要は全くありません。
次の理由は、TEATORAの想定するTPOにおいては、機能性がある(ありそうな)服と相手に感じられた時点で最もTEATORAが大切にしているTPOに耐えるという機能すらも損ないます。
なぜならビジネススーツの存在理由において最も重要なのは礼儀だからです。
もうひとつの理由はTEATORAを始める時に身の回りの尊敬できる仲間たちの役に立ちたいという思いがありました。
彼らは何を着ていても彼らであって、何かを着ているから彼らではない。何を着ていても尊敬できるのです。
そんな彼らよりも目立つようなことは全くしたくない。もし何かを添えるのであれば仄かな品格と、本人しか感じることができない圧倒的な快適さのみなのです。
世の中に生まれてから長く進化の見られなかったビジネスウェアというジャンルの開発はとてもやりがいのある分野です。
人生の中間地点に立った僕が憧れるのはファッションデザイナーではなく、スティーブジョブズであり、ジョナサンアイヴです。
これは僕の中で、若き日に焦がれたファッションデザイナーのように自らの価値観を発信して評価されることよりも、誰かの生活に圧倒的な利便性をもたらすということに、強く惹かれたことによる人生の変化だと思います。
もしも僕が開発したガーメントで、働くという行為を快適にし、仲間たちの役にたてるのであればこんなにわくわくできる分野はありません。ですので、自らが感じていたストレスフルなスーツを、開拓していくという行為は僕にとって必然です。
僕はスーツが長く進化してこなかった大きな理由はスーツが礼儀やマナーに由来するものであり、礼儀やマナーは時代は変われど大きな変化がなかったことだと考えています。
そしてこれからもゆるやかな変化はあれど、礼儀やマナーに由来することは変わらないでしょう。
進化できる隙間ができたのは、wifiインフラが整ったことやiphoneのようなオールインデバイスの誕生により、働き方や持ち物すらも、ここ10年で劇的に変わったことにあります。
TEATORAのスーツを着用した時、まるでiphoneを持ったら二度と過去の携帯電話に戻れないように二度と戻れないスーツを作る、という強い意思を持って開発しています。
僕たちのような小さなブランドがオリジナルの化学繊維を主体に開発していくことは、その膨大な開発コストから、ビジネス面だけで考えればギャンブルといっても過言ではありません。
しかし、TEATORAは売り上げを作ることよりも、圧倒的なプロダクトであることの方が最優先であり、最重要である。という信念のもと開発をしているため設立から今も困難につぐ困難です。
この信念でやっていく以上これからも同じ困難はきっとありますが、圧倒的なプロダクトが完成した時の達成感は困難をはるかにしのぎます。
ユーザーの欲しているものを作ろうという考えはありません。
TEATORAの商品は、僕自らがストレスを感じ、コンセプトを見出し、デザインし、設計し、検証し、と、通常何人もで分業でされることを、一貫して僕自身がまずは一人で行うことでTEATORAの商品は生まれています。
この間、無限にある他者の要望を一切入れません。
TEATORAから生まれた一本のコンセプトで一貫して開発することこそが強みであると考えているからです。
デザインのような創造物の最終着地点の選択肢というのは無限にあります。多くの声を取り入れることも、広くターゲットを持つことも、商売として考えれば正しいひとつの選択肢と言えるでしょう。
ただし、TEATORAではそれをやりません。
極論で言えばTEATORAは誰のためでもない、僕自身が最も誰よりも快適でありたいという究極のわがままによって作られたプロダクトだからです。
こういった物作りをしているのは、僕自身が商売的事情で平均的に作られたものよりも、誰かの圧倒的かつ個人的わがままにおいて生まれたプロダクトの方が、強く心惹かれるからです。
僕にとって最も重要なのは、自分自身がわくわくできることが、同時に誰かの役にたつこと。
TEATORAにとって重要なことは、誰かの役にたつための圧倒的なプロダクトであること。
TEATORAをデザインする時に重要なのは数値や常識にとらわれないこと。
実体験が無いのに予想でデザインしないこと。
自ら反復検証し、圧倒的という感情を見出す独自の方程式を生み出すこと。
大きく二つの要素があると考えています。
ひとつは、科学技術を提供してくれる会社が沢山増えてきたので、あの時できなかったあれができるかもしれない!や、これができるならこういうことができる!といったチャンスがいくつも出てきました。
それらが実現していくと、よりTEATORAの目指す圧倒的に近づけるのではないかとわくわくしています。
もうひとつは、現在TEATORAでは財布やビジネスシューズの開発をしていますが、例えば財布で言えば、キャッシュレスという社会変化を無視できません。wifiやiphoneの登場も同様でしたが、社会変化が起これば、持ち物も身につけるものも変わっていきます。
そういったこれまでなかった環境に対して開発していくことはとてもわくわくすることです。
interview by NORSE STORE (DENMARK)